過食と東洋医学

　過食という状態はもともと体力も強くて食べる力が強いために、他人からみれば過食と捉えられる場合もありますが、個人として比較すると、食べる量が増える過食の状態もあります。人と比べるのは身体の状態にもなるので、食べあれる人は食べられますし、食べられない人は食べられないので、人と比べると過食という定義でみるのは非常に難しい傾向もあります。

　個人として食べている量が異常に増えたのであれば、「体調が変わって過食になった」と考えていくことができるので、健康や体調に異常が生じているのであれば、対応する必要があります。日々の食事量がもともと少なくて、過食によって正常な状態になったのであればそのままでもいいのでしょうが、食事にかかる費用や手間が増えて問題になっているのであれば、どうにかしないといけないかもしれないですね。

　通常、過食が生じている場合は、飲食に用いる力が過剰になっている状態ともいえるので、身体の状態が亢進していると考えていくことができるので、熱が関係していると考えていくことになります。より単純に食欲を抑えるのであれば、耳鍼の食欲亢進を低下させるという処置をしていくのもありになります。

　さて、身体の熱が亢進していると、食べる力も亢進している状態になることが多いので、東洋医学的には過食は熱が絡んでくることが非常に多く、肝鬱化火や胃熱として考えていきやすい状態になります。他には、亡くなる直前に一時的に食欲が亢進する除中（じょちゅう）と呼ばれる状態がありますが、これは臨終前の状態として考えることができるので、過食の病能として考えていくのには適さないでしょうね。

　肝の働きである疏泄は脾胃の働きに関係していくので、肝の働きが亢進しているような状態の肝鬱化火（肝火上炎）であれば、脾胃も強制的に働かされることで、食欲亢進・消化促進が行われますが、長期化してしまえば、脾胃の働きが低下してしまうこともあるので、早い段階で体調を改善させていくことも大切になります。

　他に過食として考えられる弁証としては、胃熱という胃に熱が停滞している状態を考えていくことができます。ただ、胃熱の状態は熱の炎上性により胃の降濁作用が障害されてしまうために、胃が焼けるような感じ、胸やけ、口渇、便秘などの症状が出やすい状態になっているので、何もなく過食が生じている場合だと胃熱として断定しにくいです。

　飲食は東洋医学では、脾胃の力が関係していきますが、肝の疏泄も脾胃の働きに関係していくので、その時に完全に弁証として断定できない場合も多くなっていきます。その場合は、脾胃、肝でどちらがどれぐらいの問題が生じているのかと考えて施術をしていくこともでき、経過をみながら施術内容を変えることもできます。

　生理で過食をしているような一時的な状態であれば、生理の発来には肝の疏泄が関与しているので、疏泄が亢進することによって脾胃の働きも促進されることで過食になりやすくなります。生理の発来で過食にならなくても、腹痛、下痢、便秘などの消化器系症状が生じる場合も、肝の疏泄と脾胃のバランスが崩れてしまったことで生じている症状として考えていくことができます。

　他に過食を生じてしまう場合は、認知症での過食があり、一時的に生じるものとされているので、生理のように肝が絡む病能として考えていくこともできます。少し調べてみたら、認知症では過食になり、それから小食になるという状態で、過食期は満腹中枢が刺激されにくいことで生じていると言われていますね。

　下の話は少し違う視点があり、面白いので引用します。

「認知症と過食・拒食・異食」川崎幸クリニック院長　杉山孝博

　不思議に思えるかもしれませんが、過食の時期の認知症の人を観察すると、①動きが非常に活発である②大量の排便をする　という点に気が付きます。エネルギーの使い方が多くて、しかも栄養の吸収の高率が悪いと考えれば、大量に食べる食べ方は異常な食べ方ではなく、必要なカロリーを摂取しているにすぎないと考えることができるでしょう。

　いずれにしても認知症が進行して体の動きが少なくなると、食べ物をもてあそんだり、口の中に溜め込んだりするようになって確実に食べなくなります。・・・・「認知症の人の食生活は極めて正常である」と言えるのではないでしょうか。

　食事に関しては一説では「必要なたんぱく質を摂取すること」とも言われているので、上記のような意見は少数ですが、ありなような気もしますね。高齢者の食事内容は全員ではないでしょうが、食べやすい炭水化物（ごはん、パン、パスタ、そば、うどんなど）が多くなりやすいでしょうし、胃腸の調子も昔よりはよくない人も多いので、量はそれほど食べられていない傾向もあります。

　動物も必要なたんぱく質をしっかりと摂取するようにしていますし、人間も炭水化物中心の食事だと含まれているたんぱく質が少ないために、大量に食べる必要がありますし、たんぱく質が非常に豊富な物を食べると満腹感も非常に強くなりやすいですし。だから、ラーメンライスはできても、ステーキにとんかつはきついですしね。

　もとにもどりますが、こういった一時的な状態では、肝、脾胃、熱（胃）を考えて施術をしていくことになりますが、長期にわたっていく場合には、体重の増減、体調を注視していくことで、気血津液の異常、臓腑の障害を考えていくことになります。

　異常な状態であれば、耳鍼であれば鍼をしていくリスクも下がるので、食欲を抑えるように施術をしてもいいでしょうが、この認知症の過食だった場合は、どうした方が正解なのかというと、答えは出しにくいですね。それか、「食事はたんぱく質」と関係するという前提に立って、たんぱく質を非常に多くしてみるというのもいいですが、たんぱく質は腎臓への負担ともなるので、もし腎臓に障害がある場合は、日本腎臓学会のガイドライン（0.6～0.7ｇ/日）に従う必要はありますし、消化器への負担もあるので気を付けながらになるでしょうね。