変形性膝関節症は鍼灸で治りますか?
変形性膝関節症は、関節にある軟骨が、加齢による摩耗によってすり減っていってしまい、次第に骨が変形していってしまう中高年に多い疾患になります。最初は、運動したり、階段を上り下りするときに膝に痛みを感じるようになり、だんだんと膝の痛みが強くなってきてしまい、最終的には歩くのも困難になってしまいます。
年をとっていくことで、多くの方に生じることが多い疾患なので、高齢になってくると、「膝が痛い」というのは日常会話になりやすい傾向があります。
40~50代の方でも、立ち仕事や歩き回る仕事の人や体重が増えてしまっている人でも生じることがありますので、高齢者ではないからと言って油断できない疾患になります。
膝の痛みがかなり強くなってきてしまうと、歩くのも困難になっていきますし、痛みが出ないように歩くようになるので、歩行の動作もおかしくなってしまうことが多く、腰痛や肩こりなども生じてしまう場合があります。
膝が痛いと動くことができなくなってしまうので、
「変形性膝関節症は鍼灸で治りますか?」
というご相談が多い疾患でもあります。こういった質問には、
「変形が戻る訳ではありませんが、痛みはかなりよくなりますし、程度によっては痛みも無くなります。」
とお答えしています。
どういう原理で痛みが改善されるのかを説明していきます。
1.変形性莝関節症とは
変形性膝関節症とは、関節にある骨同士がぶつかって壊れないようにしたり、身体のクッションになったりしている軟骨が加齢や筋肉量の低下などによってすり減ってしまい、痛みが生じてしまう病気になります。
最初は、軟骨がすり減ることで、関節の隙間がせまくなるだけなので痛みが生じることがありませんが、軟骨がすり減ることで、骨棘(こつきょく)も発生してきてしまいます。この檀家になってくると痛みを感じる頻度も非常に多くなります。
進行していくと、骨同士がぶつかってしまうために、より激しい痛みが生じることになります。症状については、初期症状、中期症状、末期症状と分けられていきます。
初期症状
この段階では痛みを強く感じるというよりも、「膝のこわばり」が主症状になります。場合によっては、正座、階段昇降、方向転換などで痛みを感じることがありますが、「痛みは一時的」なことが多いです。
中期症状
中期になると、痛みがなかなか消えなくなってくるので、「持続的な痛み」になります。正座、しゃがむ動作、階段昇降が膝の痛みで辛くなり、困難になることも多いです。膝が腫れて熱感が生じたり、膝の変形、膝のきしむ音を感じるようになります。
末期症状
末期でも「持続的な痛み」になりますが、「動作が困難」も加わっていきます。痛みによって、動くことも嫌になってしまうために行動範囲も狭まり、精神的にも辛くなることが多くなります。
2.変形性膝関節症の一般的な治療と効果
変形性膝関節症の代表的な治療法は運動療法・薬物療法・手術療法になり、手術療法以外の、運動療法と薬物療法は保存療法とも言われます。
運動療法
変形性膝関節症が進行してくると、膝に痛みがあることで、膝周りを動かさなくなってしまうために、膝周りの筋肉が落ちていってしまいます。膝周りの筋肉が低下してしまうと、膝の関節にかかる負担が大きくなってしまうために、痛みが強くなるという悪循環になってしまいます。
そのため、運動療法として、膝周りを動かすことで、緊張した筋肉をほぐし、固まってしまった筋肉や関節の動く範囲を広げていきます。筋肉を動かすと、血行もよくなるので、持続的な効果も期待していくことができます。
ももの前側と後ろ側を鍛えていくことが重要なのですが、出来る強度は人それぞれなので、「大腿四頭筋筋(だいたいしとうきん)筋トレ」、「ハムストリングス筋トレ」などで調べてみて、自分に合うのも選ぶのもいいですよ。
薬物療法
薬物療法はいろいろとありますが、外用薬、内服薬、座薬、注射薬があります。
- 外用薬:クリーム、軟膏、ゲル、湿布
- 内服薬:痛み止めが一般的ですが副作用の心配もあります
- 座薬:痛みが激しい場合などに用いられます
- 関節内注射:ヒアルロン酸を注射する方法
ヒアルロン酸注射は効果があったという人もいますが、半ば諦め気味にそれしかないから、とりあえずやっているという人もいますね。海外の論文になりますが、変形性膝関節症に対するヒアルロン酸関節内注射は痛みの軽減効果はごくわずかという論文もでています。
「Pereira TV, et al. BMJ. 2022;378:e069722.」
手術療法
手術療法は、その名前の通り、関節の壊れてしまった構造を手術によって回復させていくものです。どういった手術がいいかというのは、一概に決められるものではないために、関節の状態、年齢などをもとに主治医と相談することになります。
手術ではありますが、膝関節の再生医療と言う分野もありますが、保険適応ではありませんので、治療費は比較的高額になりますし、行える場所も限られていきます。
3.変形性膝関節症と鍼灸
鍼灸は日本では現代医学が入る前から医療として行われていたもので、現在でも国家資格として残っています。全身に361あるツボを使いながら、身体の状態に合わせた施術を行っていきます。鍼灸には様々な効果がありますので、変形性膝関節症にはどのような効果として生じるかもまとめていきます。
鎮痛効果
鍼灸は鎮痛効果が高いので、昔から「ぎっくり腰」や「治らない痛み」に鍼灸が利用されていました。どうやって痛みがなくなるかという研究も沢山されていて、鍼灸の鎮痛効果が解明されています。
鍼灸を行うことで、身体の中に鎮痛物質を発生させます。夢中になっているときは、小さい怪我に気づかないこともありますが、その状態と同じようにしていきます。鍼を刺入することで、微細な損傷によっての鎮痛効果も生じるので、脳内から鎮痛させていくだけではなく、痛みがある場所も感じさせにくくしていくことになります。
筋肉の緊張緩和
硬い棒は曲げると折れてしまいますが、柔らかいゴムであれば、簡単に曲げることができますよね。変形性膝関節症では、膝周りの筋肉が硬くなってしまっているために、動かしにくい状態になってしまっているのを鍼灸を行うことで、緊張を緩和させ、膝が動かしやすい状態にしていくことになります。
血流増加
鍼灸を行うことで、微細な損傷が生じるので、その微細な損傷を回復させようとして血流が増加していきます。鍼灸を行うと、身体が温まったり、浮腫みが軽減しますが、これは血流が増加していくことで生じてくる現象になります。血流が増加すると、筋肉や神経の回復・栄養も行われていきます。痛みを生じている神経が興奮していくのも落ち着かせていくことになります。
変形性膝関節症に対する鍼灸の総合的効果
鍼灸は様々な効果がありますが、変形性膝関節症の症状・状態の改善に大きく役立ちます。
「変形性膝関節症で痛みがあった」としても、鍼灸の「鎮痛効果」によって痛みが軽減し、動かすことができるので生活だけではなく、運動療法も効果的に行えます。鍼灸は「筋肉の緊張緩和」「血流増加」にも関わるので、効率的に痛みを軽減しながら、変形性膝関節症の症状の軽減を行っていくことができます。
筋肉が緩んで動けるようになることで、狭まってしまった関節にゆとりができ、血流増加によって、腫れや発痛物質の除去にも役立っていきます。ただ、変形してしまった骨が元に戻る訳ではないので、「変形が治る」訳ではありません。
身体がゆるんでいくことで、関節の負担が減り、ぶつかって生じる痛みを発生しにくくさせていくことになります。
一般的には、痛みがある場所だけの施術が行われることがありますが、「全体のバランスの調整」も行っていくことで、よりよい効果を発揮することができるので、変形性膝関節症の方の鍼灸治療では、痛みのある場所だけではなく、しっかいと「身体の状態を整えて」いくことが大切になります。
私自身も今まで多くの変形性膝関節症の方を施術させて頂いてきておりますが、膝付近だけではなく、足や手、お腹、背中などを整えることで、症状と痛みの軽減するのを見てきています。もし、変形性膝関節症でお困りなら、しっかりとみてもらえるところで相談してみるのはいかがでしょうか。