難病は鍼灸でよくなるのか?
難病の指定は少しずつ増え、2019年には333疾患が難病として国に指定されています。患者さんの数は2016年で約10万人の方がいて、日々の生活に苦慮されている方もいらっしゃいます。
1.難病とは
厚生労働省では、「治療がむずかしく、慢性の経過をたどる疾病」を難病としています。難病は、昭和40年代のスモンという病気が発生し、昭和47年に難病対策要綱が策定され、治療法がないのみならず、経済的な負担、介護の負担が生じるので、病気の解明だけではなく、医療費の公費負担が目指されるようになりました。
スモンは、整腸剤であるキノホルムによって発生した薬害による病気で、下肢の麻痺、深部覚障害、異常感覚が生じるもので、歩行することができなくなったり、視覚障害が生じ失明したりする疾患になります。スモンでは、鍼灸やマッサージ(按摩指圧マッサージ師)でも効果がみられるのではないかということで、研究され、医療費の助成が地域によってあります。
2.現代医学と難病
難病はスモンをきっかけにして、様々な疾患が加えられ、医療費助成事業が加えられてきていますが、現代医学の発達に伴い、その中身は時代とともに変化します。
難病と言えば、不治の病、命に係わる病気、原因不明ということになります。明治・大正・昭和の時代にかけてであれば、「結核」、「脚気」、「梅毒」は、亡くなってしまう場合もありましたし、その当時の難病と言えます。それより前の時代であれば、「チフス」や「コレラ」が不治の病であり、難病と言えます。
戦後と言われる第二次世界大戦以降では、感染症によって後遺症を残してしまう「ポリオ」や「日本脳炎」、公害病として出てきた「イタイイタイ病」や「水俣病」も原因が分からず難病として捉えられていました。
現在では、「イタイイタイ病」はカドミウムが原因で、「水俣病」は有機水銀が原因ということが分かっているので、予防していくことが可能になり、難病という認識から外れ、公害病になっています。
現代医学は、どのような人に生じ、どんな生活(食事・行動)をしていたかというデータベースから原因を考え、病気の解明を行っていっているので、技術の発展やデータの蓄積によって、病気を克服してきています。
スモンをきっかけとして、ベーチェット病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、再生不良性貧血、多発性硬化症、難治性肝炎なども研究対象としてあがり、特定疾患として進んでいくことになりますが、治療研究対象疾患が増え続け、2019年には333疾患となります。
難病と考えられる難治性疾患は7000あるとも言われており、患者数の少ない物もあるので、現代医学が発展していったとしても、身体の全てが解明されない限り、今後も難病は増え続けていくことになります。
例えば、腰痛でも酷い腰痛、軽い腰痛がありますが、多くの人が罹患していますが、原因が明確で、治療も確実にあって治るという状態になっていないので、現代医学は素晴らしいところもありますが、まだまだ発展途上とも言える部分があります。
難病の歴史については以下を参考にしています。
「わが国での難病対策について」基調講演、金澤一郎
3.東洋医学と難病
難病の方は、少しでもよくならないかと悩み、インターネットで検索をすると思いますが、難病に対しては鍼灸が出てくるので、効果はどうなのだろうかと思う人も多いのではないでしょうか?
難病は現代医学では、維持は出来ても改善は難しいと言われている状態ですから、鍼灸でよくなっていくのはあり得ないと考えるのが当然ですし、嘘じゃないかと思いますよね。
私自身もいくつかの難病を担当させて頂きましたし、いろいろな方の話も伺った経験から自分の考えを書きたいと思います。
東洋医学は、現代医学が利用されていく以前に、長い間、医療として中心的な役割を果たし、日々の身体の不調から難病まで対応していました。古い文献の中には現在では糖尿病と考えられる病気などの記載もあります。
江戸時代から明治の近世では難病であった脚気(かっけ:ビタミンB1欠乏症)患者をよくしていくために、明治に西洋医と東洋医で治療成績を争ったことがあり、東洋医は食事療法を行うと改善するという経験があったので、西洋医に比べよい成績を収めました。
このように原因と効果が明確にわかっていなくても、食事を変えるとよくなっていくという経験が土台となり、効果を出すことができました。病気の原因が分からなくても、どうやったら身体が変化してよくなるかということについてのデータの蓄積があったからできたことです。
例えば、がんで腹水がたまってしまって苦しいというのは、現代医学では、取ればいいと考えていきますが(状態によっては出来ないので、状態によります)、東洋医学では、水の流れが停滞してしまっているので、水の流れをよくしていけば、症状は軽減するのではないかと考えて治療をしていきます。
腹水は取っている訳ではないので、減っていない可能性が高いですが、お腹の苦しさが軽減するという現象は生じます。場合によっては減っているかもしれませんが、腹水の量を治療前後に計測している訳ではないので、水の停滞である腹水が減っているかの確認はできません。
お腹の調子が悪いのであれば、一般の方と同様に、お腹の調子をよくするように施術をしていけば、症状が少しは変化をするのではないかという考え方なので、一般の方でも、難病の方でも、鍼灸で施術を行うことは可能です。
鍼灸の効果に関しては、こちらが驚くぐらいの効果を発揮される場合がありますが、それが鍼灸の効果なのか、生活の効果なのか、現代医学の効果なのかの判定は非常に難しいので、一概に鍼灸だけの効果とは言えないです。
私自身も難病の方の施術をさせて頂いてきましたが、考え方は、一般の方に行うような考え方をベースとして、その人の状態と辛さに合わせて施術をしていました。治るという効果を発揮することは、ほとんどなかったですが、状態が楽になり、変化が出るので、継続して施術をさせて頂いております。
難病で多いパーキンソン病は脳の神経細胞の障害になるので、よくなっていくことはないはずですが、鍼灸を継続していくことで、歩き方や表情、動きの改善が見られることが多いです。ただ、神経細胞の変性がなくなっていっている訳ではありませんので、治すのではなく、軽減という方が適切なのかなと思います。
それでも、歩きにくかったのが歩きやすくなったり、顔の表情が乏しかったのが普通に近くなったりするだけでも、本人、周囲からしてみたら大きな変化です。
医療としては治るようによくなることが大切なのでしょうが、難病の方に取ってみたら、少しでも動きがよくなると、日常生活動作(ADL)が楽になってくれば、日々の生活も楽になることが多いので、気分もよくなります。
難病自体はよくならなくても、生じている症状が軽減するだけでも、生活も気分も楽になるので、難病の方は継続して通院される人が多いです。鍼灸は料金が高いということで、通えないという方もいますが、残念ながら保険で対応できる疾患ではないですし、全体を考えて施術を行わないといけないので、部分的な施術だと改善しにくいことも多いので、制度上、仕方がない部分になります。
4.まとめ
難病は現代医学的に決められている病気であり、評価基準がありますが鍼灸での施術では身体の状態に合わせて施術を行っていくので、施術は可能ですし、変化を生じることが多いです。しかし、現代医学的な病気が治った訳ではありませんので、治るという表現は適切ではないですし、現代医学的な管理・治療も継続されることをお勧めします。
今まで診させて頂いた方の難病は治癒していませんが、生活の楽さは生じていきましたし、私自身も変化が生じると思っています。現代医学では、病気の原因が分からないという方もいましたし、世界的に症例がほとんどいないという方もいましたので、もし、気になるようでしたら、お近くの鍼灸院にお問い合わせ頂くのもいいのではないでしょうか。