風邪と東洋医学
風邪は誰でもひくものであり、感染症の一つになります。コロナに関しても感染症になるので、風邪を理解することが東洋医学的な考え方を理解する手助けになります。
1.風邪(かぜ)の分類
最初に注意しないといけないのは、東洋医学では「寒」の風邪と、「熱」の風邪があるところです。「寒」の風邪は、寒気が生じるもので、ゾクゾクと寒気がして発熱するタイプになります。「熱」の風邪は、寒気はほとんどなく、喉の痛みや違和感から始まり、高熱が生じるタイプになります。
「寒」の風邪と関係するが、「傷寒(しょうかん)」という考え方で、「熱」の風邪と関係するのが、「温病(うんびょう)」という考え方になります。
鍼灸学校だと、感染症に対する考え方というのは、ほとんどやらないですし、国試でも「傷寒」と関係する「六経弁証」が触れられるだけなので、あまり理解していない人も多いのではないでしょうか。
「寒」の風邪と、「熱」の風邪を一緒に説明するのは難しいので、「寒」だけにしていきます。「寒」の風邪を診断していくのに、客観的に評価できるように、通常は、「六経弁証(ろっけいべんしょう)」と「八綱弁証(はっこうべんしょう)」を使っていきます。
東洋医学では、「見る」「聞く」「話す」「触る」という主観的な評価で身体を判定していくことが多いので、評価に関しては主観的になりやすい「一つ」ではなく、客観性を求めて「二つ」用いたのではないでしょうか。
どういうことかというと、人間の身体を平面で考えたときに、病が生じている点を1点で捉えようとした場合には、一つの指標では1点を表すことができません。
余計に分かりにくいかもしれませんね。テーブルが人だと考えていき、どこに問題があるのかという1点をテーブルで表す場合には、縦ではどこ、横ではどこという2点がないと1点を客観的に評価できないのではないでしょうか。
病は身体の状態によっても変化していくものなので、1点が出ないと、次の点へ向かったという軌跡も出せないですし、軌跡を出せるから治療していくことができるのではないでしょうか。
東洋医学では、理論的に整理していくことで、処方を決定でき、予後を判定することができるので、どういった状態であるかという理論は非常に大切になります。
2.「寒」の風邪(かぜ)の一般的な状態
まず、「寒」の風邪は東洋医学的には「風邪(ふうじゃ)」と「寒邪(かんじゃ)」が身体に影響していくことで発生していくと考えていきます。「風邪(ふうじゃ)」は身体の持っているバリアー機能(「衛気(えき)」)を破壊する働きがあり、破壊することで、他の外邪(環境の影響、暑い、寒い、湿度、乾燥など)が入ってくる隙を作ります。
「風邪」とともに入ってきやすいのは「寒邪(かんじゃ)」ですが、寒いといわゆる風邪(かぜ)が流行っていくというのはコロナ以前からよく言われていたもので、代表的なものがインフルエンザですね。
冬の風邪(かぜ)は、冷えが強くなることが多く、この状態のことを「悪寒(おかん)」と言います。「悪寒」は厚着をしても、部屋を暖かくしても取れない冷え症状です。温めたら冷えが取れる場合は「畏寒(いかん)」とよびます。
この「悪寒」は日常生活で発生するものではないので、風邪(かぜ)の特殊な症状として有名ですね。
東洋医学的には、身体の表面に外邪(がいじゃ)が襲ってくることで、バリヤー機能が破壊されてきてもいるので、ちょっとした風がふくと調子が悪くなったり、寒く感じたりしてしまう「悪風(おふう)」が生じます。
この「悪風」は表面のバリヤー機能が低下してしまった状態なので、風邪(かぜ)によっても生じやすいですが、体調が悪くなって、身体のもっている力が低下すると、身体の表面を守る力(衛気)も弱くなってしまうために、悪風が生じることがあります。体調が悪いときに、悪寒ではなく、風で寒く感じてしまうのは、衛気が少ないか、衛気のめぐりが悪いかのどちらかになります。
衛気については、不足している場合は、生成が不足している場合、十分にめぐっていない状態を考えることができますし、生成が不足しているのであれば、作る力が弱いのか、作る材料がないのか(飲食)、作るのが邪魔されているのかというように、分岐点を作り、そこから虚実を考えてさらに分岐をしていくので、症状を追いかけていくことで、細かくなっていきます。
悪寒して、少し発熱している状態が身体の表に病があるという「表証」という状態になり、「悪寒、発熱」だけではなく、項(うなじ)の強張り、節々の痛みや違和感が発生していきます。
項が強張るのは、風邪(ふうじゃ)には軽揚性があり、上部に侵入しやすいという特色があるためです。それ以外にも、大椎(だいつい)は手足三陽経という身体の陽・表と関係する経絡がつながるところであり、督脈でもあるので、督脈は陽脈の海とも言われ、陽との関係が密接なので、風は陽を壊しやすいので、陽と強く関わる、項・頚部に感覚の違和感が生じる状態です。
予防、治療として大椎が用いられるのは、こういった関係があります。
節々の痛みは、風邪(ふうじゃ)には遊走性があり、身体のいろいろなところへ移動し、その場所での障害を発生させてしまうことになるために、全身の様々なところに障害を発生させいます。
風邪(かぜ)の状態のときには、症状がコロコロと変化していくので、症状によって身体で生じている状態に違いがあるので、どういった症状がでていて、病がどこへ向かっているのかをしっかりと確認していくのが早期回復への近道になります。
悪寒と発熱をしていながら、発汗をしている場合は、身体の持っている力が弱くなってしまっている状態なので、発汗が発生している場合は、風邪(かぜ)の治療だけではなく、身体の力を補ってあげることが大切になっていきます。
悪寒したら、発熱して、解熱・発汗が通常の風邪(かぜ)でみられる状態ですが、悪寒して、発熱、また悪寒して発熱というように、悪寒と発熱を繰り返す状態は、半表半裏証(はんぴょうはんりしょう)といいます。
重い感染症などでは、悪寒と発熱を繰り返すことがあるので、この場合は注意が必要になります。悪寒と発熱を繰り返すということは、悪寒も発熱も身体の力を使っていくので、治ったとしても、かなり身体の力は消耗していることになるので、悪寒と発熱を繰り返すような場合は、落ち着いた後も養生を大切にした方がよくなります。
半表半裏証にならずに、高い発熱が生じたり、腹部症状、呼吸器症状などが発生していったら、病が進行している状態と考えていきます。こういったものを理解するのが、今は病がどこにあるのかを理解するのが「六経弁証」で、どういった状態かを理解するのが「八綱弁証」になります。
症状が増えたり、変化するのが、東洋医学的には状態が変化した証拠であり、「証(しょう)」が変わったということなので、治療内容にも違いが生じることになります。
脈診や腹診という東洋医学的な診察によって診断することもできますが、問診で話を聞くことでも、「証」を考えていくことができるので東洋医学的に考えるというのは非常に大切になります。
通常は、解熱して発汗すれば治ることが多いのが風邪(かぜ)ですが、風邪(かぜ)によって障害されたことで、症状が残ることがあります。
例えば、咳もよく残る症状の一つですが、痰が絡む場合、痰が絡まない場合があります。このように、症状に対して「分類する」のが東洋学的な考えを利用できることであり、陰陽、三才、五行論の重要なところです。
痰が絡む場合は、単純に水のめぐりが悪くなってしまい、ゴミである痰湿(たんしつ)が停滞してしまった場合や、吸収や排泄がうまくいかなくても、水の停滞が生じている場合もあるので、状態によって治療内容が変化していきます。
痰が絡まない場合で典型的なのは、空咳です。空咳は身体の陰液不足(水分不足)で生じる症状として、国家試験などでも鍼灸師にとっては馴染みの症状です。陰液の不足は、発熱という熱によって身体の水が不足させられてしまった場合もありますが、発汗が多すぎて身体の陰液がなくなってしまった場合もあります。
熱によって水が不足してしまうのは、身体の熱は一定以上にならないように、身体の水によって冷やしているという考え方ですし、自然観察として熱(火)があれば水が乾くが合わさったものといえますね。
一つの症状でも原因はいくつかに分類していくことができるので、東洋医学的に考えていく場合は、症状や所見(脈診・腹診)情報も並べてみて、整理していく必要があります。
3.風邪(かぜ)に対する治療
風邪(かぜ)に対する治療は、漢方だと『傷寒論』という書籍にも書かれているように、症状によって用いていく漢方が変わっていきます。
例えば、名前をよく見かける葛根湯(かっこんとう)は、表証の初期に効果的ですが、悪寒が強くなったり、発熱が強くなったりしたら、初期の葛根湯が効果がある状態ではなくなるので、他の漢方になります。
薬局には葛根湯が非常に多く置いてありますが、個人的な見解では、葛根湯が効く時間は非常に短いので、違和感を感じてから発熱などが強くなる前までなので、ちょっと調子が悪いかなというタイミングなので、違和感を感じたら飲むというぐらいじゃないと難しいですね。
私自身は抜群にはまったときが一度だけありますが、たまたま手元にあってすぐに飲めたので、飲んだ瞬間に寒いかなという違和感が消えて、暖かいという状態になって、そのまま暖かく過ごし、次の日は何もなく、身体はすっきりという状態でした。
鍼灸で風邪(かぜ)に対してだと、中医学(ちゅういがく)という視点であれば、外関(がいかん:陽維脈:よういみゃく)、大椎(だいつい:督脈:とくみゃく)がよいでしょうし、お灸も効果的ではないでしょうか。
表証ということで、風寒の邪が身体に入り始めているので、背腰部に対して吸角を用いていくのも、表証への対処としてよさそうですね。
あとは、これ以外にも、身体の状態によって、ツボを増やしていくことになりますが、どんな症状が出ているのかによって大きく変わっていきます。
うまくはまっていけば、一度の治療で大きく変化していきますが、漢方と同様に、状態によって治療を分けていくと、効果も変わっていくので、自分で自分に対して施術ができる場合は、自分でその時々に対して治療を加えていくのがよいです。
鍼灸治療の場合は、漢方と違って、いろいろなやり方でやられている方がいて、それぞれで結果を出しているので、そう考えると、漢方よりは、曖昧なところがある可能性があります。
例えば、漢方だったら寒の風邪の初期は葛根湯で、だいたい意見があいそうです。鍼灸だったら、初期は、お灸、鍼、接触鍼、足から、腕からというようにバラバラになりそうですが、それでも効果はまあまあ出るのではないでしょうか。
もっと言えば、治療自体が全然違くても効果が出る可能性が高いので、刺激量の調節がうまくいけば、どういったやり方でもよさそうです。
診察情報も、脈だけ、お腹だけでもありえるので、やはり鍼灸の方が曖昧さがあるイメージですね。
4.まとめ
コロナ以前では、風邪(かぜ)をひいた、発熱がある、咳が続くなどに対しても施術をすることがありましたが、現在だと、風邪(かぜ)・発熱・咳があると、受診をひかえるという状況になっているので、風邪(かぜ)に対する施術は、今後もしにくいし、経験を積みにくい状況になっていくのではないでしょうか。
世間的には、風邪(かぜ)などのときは、家でゆっくりしていけばよくなることが多いので、休んでいるのが一番の薬でしょうね。ちょっと残念なところは、リモートワークもコロナによって発達したので、そういった状況でもリモートでという状況になっているところですね。
鍼灸師などのように対人ビジネス業は、リモートという訳にはいかないので、自分の風邪(かぜ)は自分で対処していくことになるので、風邪(かぜ)への対処は知っておいた方がいいですし、漢方も知っておくのがいいのではないでしょうか。
リモートという言葉を使いましたが、テレワークとリモートワークって意味が違うのですね。初めて知りました。特に解説もつけないですし、多分、すぐに忘れてしまいそうですが、言葉って大変ですね。