パーキンソン病(PD)と鍼灸

 パーキンソン病は、進行性の疾患で、最悪の場合は寝たきり状態になってしまいますが、鍼灸の施術を受けられている人も多く、継続して受けられている方は、症状が軽減していく方が多い疾患の一つです。

1.パーキンソン病

 パーキンソン病は50歳代で生じることが多く、高齢になるほど発病する確率が高いもので、運動機能に障害が発生し、「震え」が生じる病気になります。身体の片側から生じ始め、ゆっくりと進行し、両側に生じていきます。運動機能の障害が発生してしまうので、動くことが少なくなり、寝たきりになってしまう人もいます。

 パーキンソン病では、神経伝達物質であるドーパミンの減少が関係することが多く、脳の黒質の細胞減少も関係していると考えられています。

 パーキンソン病は、「手足のふるえ」が生じやすく、手足がこわばり、身体の姿勢を維持することが難しくなっていくので、小刻みな歩行になっていきます。運動機能が低下してしまうことにより、身体を動かすことが少なくなり、余計に筋力低下を生じてしまうことがあります。

 運動機能以外でも、自律神経が乱れ、便秘、排尿障害、発汗異常が生じたり、うつ病を発症したりしてしまいます。神経伝達物質のセロトニンの分泌まで影響していくと睡眠の障害も発生していきます。セロトニンはリラックスなどをもたらすので、「幸せホルモン」とも呼ばれています。

 パーキンソン病ではホーン・ヤールの重症分類があります。Ⅰ~Ⅴ度の5段階の分類で、全員が一番重いⅤ度の分類に進行するわけではなく、脳卒中、認知症、長期安静があった方がほとんどになります。鍼灸で対応しやすいのはⅣ度までになります。Ⅴ度の方でも症状の改善が見られることがありますが、他の疾患の影響も大きいので、改善がしにくい傾向があります。

ホーン・ヤール分類
 Ⅰ度.身体の片側に手足のふるえやこわばりがある。障害はあっても軽い。
 Ⅱ度.両足の手足のふるえ、こわばりがある。日常生活や仕事が不便になる。
 Ⅲ度.小刻みに歩く、すくみ足、転びやすくなる。日常生活に支障が出るが、介助なしで過ごせる。
 Ⅳ度.立ち上がる、歩くのが難しくなる。介助が必要になる。 Ⅴ度.車椅子が必要になり、ベッドに寝ていることが多くなる。

2.パーキンソン病と鍼灸

 パーキンソン病の方が鍼灸を受けられるきっかけとしては、パーキンソン病だからということではなく、ほとんどの方が、どこかが痛くて通院してみたら、パーキンソン病も少し楽になったということで、続けられるパターンになります。

 鍼灸師でもパーキンソン病を施術した経験がない方はいますが、経験がある人と話をしていると、継続施術していくとパーキンソン病は、安定しやすいし、生活しやすくなったと喜びの言葉をかけて頂くことが多いという話になります。もちろん、個人差があるので、改善度合いも個人差があります。

 歩く時の1歩目が出にくかったのが、スムーズな足の運びになったり、ふるえがあったのが軽減したり、表情が乏しかったのが、明るく見えるようになったりと、個人差はありますが、改善していきやすいです。

 パーキンソン病は現代医学的には、神経伝達物質が減少しているので、完治は難しいものになりますが、東洋医学で考えれば、身体の筋肉を動かす血(血液とは少し違う考え方)を補うことで症状が改善できるのではないかと考えて施術を行っていきます。

 そんなに効果があるのであれば、情報が広まるのではないかと思う人もいるでしょうが、鍼の効果を現代医学的に説明するのは非常に難しいのです。現代医学的に評価が高い論文にする場合、簡単に言えば、

  • 鍼をした人
  • 鍼をしていない人
  • 鍼をしたと言ったけど鍼をしていない人
  • 鍼をしないと言ったけど鍼をした人

というように、グループ分けしないといけないですし、やっている人も分からないようにするのがいいのですが、現実的に不可能なので、鍼灸と病気に関する論文は増えにくい傾向にあるので、広まりにくいのです。

 それでも、いくつかの論文が見られるようになっているので、ご紹介しておきます。

パーキンソン病に対する鍼治療の臨床効果に関する研究

 この論文では、パーキンソン病に対して、東洋医学的に考えて施術を行っていったときに、月に1回の施術した人でも効果はありましたが、週に1回で施術をした人の方が、効果がよかったという内容です。改善が見られたのは、精神症状、日常生活動作、運動症状なので、パーキンソン病の方に取っては、精神的な落ち込みがなくなり、身体が動かしやすくなったので、日常生活がしやすくなったということです。

鍼治療により歩行障害の改善が認められたパーキンソン病の1例

パーキンソン病に対する薬物治療と鍼灸治療併用療法についての治療成績
運動器症状の改善、進行の抑制

 上記2つもパーキンソン病に対する鍼灸の論文ですが症状の軽減があり、進行の抑制がみられたと結論づけられています。

 パーキンソン病に対応している鍼灸師が持っている改善するという感覚は、論文の中にも書かれているので、歩行の改善は生じやすいと言えます。特に早期や書状が軽い方は効果が得られやすい傾向があります。

 鍼灸の本場である中国だと、パーキンソン病は「帕金森氏病」になるのですが、この「帕金森氏病」で中国語のサイトを検索すると、鍼灸での対応がいろいろ書かれていて、「パーキンソン病に対する鍼治療の臨床効果に関する研究」と同じようなツボが利用されています。

 鍼灸での施術の場合は、パーキンソン病に対する施術をしていると言えますが、パーキンソン病が発生した原因を東洋医学的に考えて施術していくことで、パーキンソン病に関わる身体の不調以外も改善していくことが多いです。

3.パーキンソン病になったときに自分で出来ること

 パーキンソン病になられた人は、病院での診察を受けているので、病院での指導も受けているので知っていることが多いでしょうが、自分で筋力維持のためのリハビリテーションを行っていきましょう。

 病院でリハビリも行っている場合は、リハビリの先生の指導の下、自分に必要な運動を行っていくのがいいですね。

 リハビリに関してはあまり行っていないという場合は、「パーキンソン病 リハビリ」で検索するといろいろと出てくるので、自分が必要なものでやりやすいものを選ぶ方法もあります。

大日本住友製薬のサイトでは、「おうちでできる!リハビリテーションのススメ」というのもあり、内容もまとまっていますし、動画もあるので、おススメですね。

 運動機能が低下していきやすいのがパーキンソン病の特徴ですが、運動機能は、運動をしていくことで高めていくことができるので、筋肉に刺激を入れる、ストレッチ、軽い筋トレを継続していきましょう。

 自宅での生活環境も整えていくことが生活しやすさにもつながるので、手すりを家に設置したり、部屋や廊下を片付けたりしていくといいですね。

4.まとめ

 パーキンソン病は、病院のリハビリ、デイサービス、鍼灸といろいろなところでも対応しているので、ご自身の症状、生活する圏内の中でうまく利用していくと、症状の軽減につながりやすいですね。

 リハビリで疲れた身体を回復させるのにも鍼灸は有効なので、生活の中にうまく取り込めていくといいですよ。