新型コロナウイルス後遺症に関して
新型コロナウイルスで後遺症が生じてしまう場合があり、よくできる治療が無いようですが、鍼灸で改善を行えるのではないでしょうか。海外での対応含めてまとめておきます。
1.新型コロナウイルスに関して
新型コロナウイルスはコロナウイルスの一つでです。コロナウイルスは一般の風邪の原因となるものや、重症化しやすい「重症急性呼吸器症候群(SARS)」や「中東呼吸器症候群(MERS)」があります。コロナウイルスはRNAウイルスの一種で、自分で増えることができませんが、粘膜などの細胞に付着して入り込んで増えることができます。
物や皮膚に付着したウイルスは時間がたてば壊れてしまいますが、壊れるまで24~72時間かかる場合があります。手洗いは流水だけだったとしても、ウイルスを洗い流すのに有効で、石けんを用いるとコロナウイルスの膜を壊していくので、新型コロナウイルスに対して、手洗いが有効と言われていきます。
ただし、手洗いは、指だけではなく、指先、指の間、手首などシワが多いところでは取れにくいので、手洗いをする際には、指先、手首などシワが多いところまで十分に洗うことが必要になります。手指消毒のアルコールもコロナウイルスの膜を壊すのに有効になります。私自身が多くの人の行動を見たところで、弱い点があるのは、手洗いとアルコール消毒になります。
手洗い
手洗いは、隅々まで行っているというよりも、手先だけになっていることが多いので、指の間、手首までしっかりと洗うようにしていくことが大切になります。手洗いした後は、ペーパータオルで拭く方がいいですが、無い場合はハンカチでも構わないです。
アルコール消毒
アルコール消毒は、速乾性によってウイルスの膜を壊すことができるものですが、手洗い同様に指の間、手首など広い範囲で隙間なくアルコールを染み渡らせることが必要になります。
スーパーなどでアルコールを利用している方を見ていると、指先だけに少しつけて終わりにしてしまっている人が多いので、たっぷりの量を手や手首の隙間まで擦りこませるように行う必要があります。
水がついている状態だとアルコールの速乾性を生かし切れていないので、飲食店で水がついたダスターで拭いてすぐ後に、アルコールを行う場合もアルコールの力を生かしきれないので、しっかり乾かした状態でアルコール消毒をする必要があります。
手洗いとアルコール消毒はせっかくの効果を生かし切れていないと感じることが多々あるので、注意していかなければいけません。
新型コロナウイルスは、飛沫感染、接触感染によって生じますが、接触感染は手洗い、アルコール消毒で対処していきます。飛沫感染は不織布マスクを利用すると防ぐことが出来ますが、それでも換気が悪い場所で長時間、近い距離で会話をすると微量に飛ぶことがあるので、換気と大きな声で話さない、くしゃみなどをする際には、マスクの上から肘で抑えて飛ばないようにしていかないといけません。
新型コロナウイルスのいやらしいところは、発症の2日前から発症後7~10日間程度感染させると考えられますが、変異株もあるので、少し差が生じる可能性があります。発症の2日前は症状も出ていないので、何も問題ないと感じてしまうので、いろいろと行動するでしょうし、無症状感染者からも感染するので、感染者という自覚がないまま生活をしているうちに、周囲に感染者が出てしまうことになります。
何故、人との接触を減らさなければいけないのかというと、発症前・無症状者からの感染があるので、人との接触を減らすことで、飛沫感染を浴びるリスクを下げるということになります。
動物などからの感染は今のところ生じていないようです。現在のところ(2021年5月現在)では心配するほどではないですが、今後の状況も考えて、自分が飼っている動物以外への接触は減らしておくのが賢明なのかなと感じています。
感染者からの排泄物である糞便は多量のウイルスが含まれているようなので、感染者が使用したトイレで、特に下痢などでトイレが汚れた場合は、次亜塩素酸ナトリウム(市販されている漂白剤)などを用いて清掃を行った方がいいですが、しっかりと手袋を装着し、装着した手袋を外すときにも表面に触れないようにし、手洗い・消毒を行った方がいいです。
家庭内は、マスクを外しますし、閉め切っている場合もありますし、飲食時に会話をすることも多いので、家庭内感染は生じやすい状態になります。家庭内で感染を徹底的に注意するのであれば、部屋を分け、共有部(特にタオル、歯磨き粉など)も分けておき、会話時に注意をしていく必要があります。
自然と顔(目、鼻、口など)を触れることも多いので、外で何かを触れた手で顔をかくなどする場合は、手の甲側にしておく癖をつけておくとリスクを軽減することができます。
しっかりとした情報は厚生労働省から出ていますので、適時、厚生労働省のサイトを確認しておくと安心ですね。
「新型コロナウイルス感染症について」厚生労働省
2.生じやすい後遺症
新型コロナウイルスで生じる症状は以下のようなものがありますが、まだまだ分かっていないことも多いですし、変異株の問題もあるので、変わってくる可能性があります。
- 嗅覚障害
- 呼吸の苦しさ
- だるさ
- 咳
- 味覚障害
- 関節痛
- 筋肉痛
- 脱毛
- 睡眠障害
- 頭痛
新型コロナウイルスは、身体の中にある様々な細胞、肺や血管に影響をしていくので、心臓、肺、腎臓、脳、腸など様々な臓器に影響を与えていきます。身体の免疫機能はウイルスなどの異物を除去するために働きますが、この新型コロナウイルスでは、自分の身体を損傷させてしまうことがあります。
さらに血栓が出来てしまうと、血栓はつまりを生じてしまうために、臓器付近の血管で血栓が詰まってしまうと、損傷を拡大させてしまいます。症状が軽症であったとしても、身体の中ではダメージを受けている可能性があるので、後遺症として残ってしまう可能性があります。
しかも、「新型」なので、病気や治療に対する研究がないので、後遺症がどうして生じるのか、どのぐらい続くのか、どうやって過ごしていけばいいのか分からないことばかりになります。
海外でも同じ状況のようで、イギリスでは、感染後についての身体の回復のさせ方についてのブックレットが出ています。筋力、倦怠感、食事、におい、嚥下、発声、息切れ、咳、睡眠、不安(ストレス)、不安感に対して書かれているので、様々な後遺症があることが分かります。2つ目の方が簡易版で倦怠感が主体になっています。
「Caring for yourself after coronavirus(COVID-19)」
「Recovery for fatigue after COVID-19」
私自身は英語を細かく読むのは難しいですが、全体を読んでみたところ、自分の身体の状態に合わせて、ゆっくりと回復させることを考えていくことが大切になり、たんぱく質などの栄養素もしっかり取って、身体の回復を目指していくしかないようですね。臭いが感じない場合は、アロマなどを使いながら、臭いを感じるトレーニングも勧めています。
3.新型コロナウイルスと東洋医学
新型コロナウイルスの起源は分かっていませんが、2019年の12月頃から中国で拡大し始めたために、中国では早期から漢方や鍼灸での治療介入があったようで、鍼灸をどのように使っていくのかということについても情報発信がされていました。
東洋医学は、現代医学がメインとなる前から医療の中心として中国や韓国、日本で医療として利用されてきているので、様々な感染症に対しても対応してきていました。感染症に対するワクチンができるまでは、身体の持っている力(免疫力)を上げ、感染しないような身体を作ること、感染しても回復するように考えていました。
この東洋医学の考え方は、身体を考えていく上では大切なのですが、ワクチンのように絶対という確実性が高い訳ではないというのが弱点とも言えます。現代医学は問題となっている原因が分かれば、ワクチンや手術、投薬とピンポイントに治療を行って治療することができるので、感染症は得意ですが、病気が解明されていない場合は、様々な症状に対しては対応しにくくなります。
こういった、様々な症状が生じている場合は、身体のバランスを整えていこうという東洋医学的な考え方では力を発揮しやすいですし、実際に用いられています。
新型コロナウイルスに対する鍼灸のやり方については、中国で早い段階から公開されていて、日本語に翻訳しているところもあります。中国語サイトを翻訳している日本伝統鍼灸学会のリンクを下に載せておきます。
「中国针灸学会新型冠状病毒肺炎针灸干预的指导意见」(第二版)
「新型コロナウイルス感染症への針灸介入に関する手引き」(第二版)日本伝統鍼灸学会
文章が長くなってしまうので、感染が疑われているとき、治療期、回復期のツボだけ、「日本伝統鍼灸学会」のサイトから引用しますが、全部を使う訳ではなく、身体の状態に合わせて、いくつかのツボを用いていくと書かれています。
1)医学観察期(感染が疑われる症例)の針灸介入
(1)風門・肺兪・脾兪
(2)合谷・曲池・尺沢・魚際
(3)気海・足三里・三陰交
毎回各組穴位を1~2穴選択し使用する。
2)臨床治療期(診断が確定した症例)の針灸介入
(1)合谷・大衝・天突・尺沢・孔最・足三里・三陰交
(2)大杼・風門・肺兪・心兪・膈兪
(3)中府・膻中・気海・関元・中脘
軽症・中等程度患者には毎回(1)(2)より各2~3穴を選択
重症患者には(3)より2~3穴選択する
3)回復期の針灸介入
主穴:内関・足三里・中脘・天枢・気海
「新型コロナウイルス感染症への針灸介入に関する手引き」(第二版)日本伝統鍼灸学会
このツボの使い方を見ていくと、感染が疑われる状態のときには、身体の中に入ってきているだろう、外邪(ここでは新型コロナウイルス)を取り除けるように身体の力を強くしながら、排泄していこうと考えて行っていると言えます。
臨床治療期ではツボの数が非常に多くなりますが、症状や身体の状態に合わせて、身体の持っている力を強くしていこうというのが分かります。身体の中に気や血(けつ)が流れているのですが、この流れをよくしていくことで、身体の機能を高めようという考え方が含まれています。
回復期では、主穴としてメインとなるツボがあり、さらに体質に合わせた治療を加えています。さらに、自宅でもお灸をやってもらいながらセルフケアを勧めています。
漢方についても早期から情報発信がされていて、日本語での解説が入っているものもあります。詳細に内容を見ていくと、予防や症状に合わせて漢方を柔軟に利用していっていることが分かります。当初はワクチンもなかったので、中国では多く利用されていたのではないでしょうか。
「COVID-19 感染症に対する漢方治療の考え方(改訂 ver 2)」日本感染症学会
4.新型コロナウイルス後遺症に対する鍼灸
新型コロナウイルスの感染が拡大してからは、感染後の重症化についての情報も多かったですが、後遺症に対する情報も多く出てきていて、感染者が増えたことで後遺症で苦しんでいる人も増えているのではないでしょうか。
この新型コロナウイルスはウイルス自体を発見できて、ワクチンによって予防していくことができますが、身体の中で何が起こっているのかは解明できていないために、現代医学的に治療が非常に難しいですし、イギリスの事例を見ても、緩やかに生活のリハビリをしながら、回復していくのを待つという方法になっています。
現代医学は、症状が起きる原因がはっきりと分かって、手術や投薬などの方法が確立されないと治療方法がないのが辛いところです。
東洋医学では、身体の状態を把握し、身体の状態に合わせた治療を行っていくことで、身体に生じている様々なトラブルを無くしていくという考え方なので、新型コロナウイルスの後遺症に対しては、対処しやすいのではないかと思っています。
いろいろと調べてみると、鍼灸院でも新型コロナウイルス後遺症に対応している方達がいて、結果は良好のようです。まだまだ情報としては少ないですが、実際に後遺症に対して治療を行って発表されている人もいます。
「COVID-19 治癒後の諸症状の⼀症例」日本中医学会
現代医学は手術や薬などで病気に対応する力が強いのですが、身体の免疫力を上げるというような元気にするという部分は弱いので、鍼灸を含む東洋医学の方が、分からない疾患や回復していくという部分には強いのでしょうね。
新型コロナウイルスでの後遺症は人によっても違うようですし、一つだけではない場合は、東洋医学的なアプローチをしていくことで、身体が回復していく手助けになりやすいのではないでしょうか。
どこのツボを使ったらということに関しては、その人の体質や状態、症状によって違いがあるので、決定していくことは難しいですが、足三里・三陰交・合谷・気海・肺兪・心兪・脾兪・腎兪などもいいのではないでしょうか。セルフケアとして行うのであれば、お灸を利用していくのがやりやすいでしょうね。
新型コロナウイルス後遺症に対しては鍼灸や漢方も有効ではないかと思いますが、私自身はまだ対応したことがないので分からないところはあります。