シェーグレン症候群と鍼灸
シェーグレン症候群は中年女性に発症しやすい疾患で、乾燥が主体となる疾患で難病指定されています。乾燥以外の症状もありますが、気づかずに生活されている人もいる疾患になります。
1.シェーグレン症候群とは
シェーグレン症候群は唾液腺や涙腺などの唾液や涙を作るところに炎症が生じてしまう疾患になります。唾液や涙が少なくなってしまうために、目や口が乾燥してしまいます。シェーグレン症候群は、中年女性に生じやすい疾患ですが、幅広い年齢で発症することがあります。
涙や唾液は、目や口に潤いを与えるだけではなく、細菌やウイルスから身体を守る物なので、免疫と関係します。免疫にかかわる涙や唾液を出す唾液腺や涙腺の免疫機能が壊れてしまうために、自己免疫疾患と呼ばれていきます。
シェーグレン症候群は日本では約10万人の患者がいると考えられていていますが、乾きやすいというだけだと思って病院を受診していない人もいる可能性があるので、もっと患者数が多いのではないかと考えられています。シェーグレン症候群は、一次性シェーグレン症候群と二次性シェーグレン症候群があります。
シェーグレン症候群全体では、一次性シェーグレン症候群は約6割で、二次性シェーグレン症候群は約4割の比率になります。
一次性シェーグレン症候群
一次性シェーグレン症候群は、関節リウマチなど他の膠原病の合併がみられないもので、一次性シェーグレン症候群はさらに、腺型と腺外型に分かれます。
腺型は、涙腺・唾液腺などの、分泌するところだけに症状が出るタイプで、ドライアイ・ドライマウスが中心となります。腺外型は、分泌腺だけではなく、全身の臓器に影響が生じます。腺型と腺外型の比率は、腺型が約7割、腺外型は約3割になります。腺外型は、腺型の乾燥症状だけではなく、関節炎やしびれ、間質性肺炎、腎障害など、全身に症状が生じます。
二次性シェーグレン症候群
二次性シェーグレン症候群は、関節リウマチや全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎など、他の膠原病がある人に生じていくものです。シェーグレン症候群も膠原病と呼ばれる自己免疫疾患になるので、他の膠原病がある人で生じてしまう場合があります。
関節リウマチなど他の膠原病で痛みや行動、生活が制約を受ける中で、ドライアイ・ドライマウスも発症してしまうので、QOLの低下はしやすくなってしまいます。
2.シェーグレン症候群と鍼灸
シェーグレン症候群は、現代医学の治療でコントロールしていきますが、思ったより効果が出なかった場合は、他にできることがないので、鍼灸なら変わるのではないかと考え、来院し、通院されることが多いです。鍼灸の施術を行うと、改善をしていくことが多いので、継続して施術を行うことになります。
シェーグレン症候群と鍼灸では、現代医学的な考え方と東洋医学的な考え方で施術をしていくことになります。それぞれの良さを利用しながら施術をしていくことで、シェーグレン症候群の辛さである、乾燥症状の改善を行います。
現代医学的な考え方では、涙腺・唾液腺に異常が生じているので、涙腺・唾液腺付近に鍼を行うことによって、身体は鍼という異物が入ってきたことに対して、免疫が働きます。例えば、鍼を刺すことで、傷ができるので、その傷を治すために血流がよくなることで、周囲の血流状態が変化し、涙腺・唾液腺の異常も軽減していくと考えます。
こういった現代医学的な施術は研究がしやすいので、シェーグレン症候群と鍼灸に関する論文が出ています。
乾燥症状スコアの検討では、dry mouthscoreの初回と10回目施行後の累積効果の比較で、明らかな有意差が認められた。
「シェーグレン症候群(SjS)患者の乾燥症状に対する鍼治療効果」日温気物医誌台63巻2号2000年2月
東洋医学的な考え方の場合は、東洋医学で考える身体の状態というのが非常に重要になります。東洋医学は身体の中に臓器があり、気・血・水(津液:しんえき)が流れていくと考えていくのですが、シェーグレン症候群で生じている症状は、乾燥が主体になるので、水が不足をしてしまっている状態と考えていきます。
津液である水が不足するのはどういうことかというと、水を取っていない、水の吸収ができていない、水があるけど熱により乾燥してしまっているのではないかと考えていきます。水を取っていない場合は、水分を取れば改善しますが、吸収の異常や熱がある場合には、改善を行う必要があると考えていきます。
水の吸収を行っていくのは、消化器系の働きになるので、水の吸収がよくない場合は、水の吸収がよくなるように施術を行う必要があります。
熱があるといっても、発熱をしているということではなく、身体のどこかに熱がある状態として考えていきます。人は年とともに潤いを失っていくので、東洋医学では、加齢により、身体を潤す力である、水がだんだんと不足をしていく状態として考えています。
この潤いを失っていく状態のことを陰虚(いんきょ)と呼び、身体の水が不足するだけではなく、陰という冷やす力がある物が低下してしまっているので、熱を生じてくると考えていきます。
シェーグレン症候群の場合は、乾燥が主体となってくるので、東洋医学的に考える水の異常・熱というのを考慮していきながら、ツボを使って施術を行っていきます。水の循環には、手足だけではなく、お腹や背中など多くのツボが関係していくために、全身にある361のツボの中から、その人にあったツボを選び、適切な刺激を加えることで、体質の改善を図り、シェーグレン症候群で生じている乾燥症状の改善を行います。
現代医学的に考えていけば、不思議なことをしているものになりますが、東洋医学は昔から医療として用いられていて、現代医学が中心となる前までは、全ての疾患や症状に対して利用されていたので、シェーグレン症候群の完治はできないですが、症状の軽減を行うのは得意な方になります。
鍼灸は、現代医学で改善がみられない方が利用されることが多いですが、一つの考えでよくならないのであれば、違う考え方を使うというのは、どういったときでも利用されることなので、様々な疾患の対応をしていくことが多いです。
3.まとめ
シェーグレン症候群は自己免疫疾患で乾燥が主体として生じる疾患で、難病指定されているので、完治が非常に難しい疾患ですが、症状の軽減では鍼灸は昔から行われているので、乾燥症状の軽減が行える可能性が高いです。腺外型などでは、乾燥症状以外にも、関節の痛みやしびれなども生じる場合がありますが、鍼灸は痛みに利用されることが多いので、乾燥症状以外の軽減にも有効です。