ナルコレプシーと東洋医学

ナルコレプシーとオレキシン
ナルコレプシーは、急に眠気が眠気が生じてしまうものであり、日中に突然眠ってしまうために、事故のリスクもある病気になります。ただ、内臓に大きな病気があるとか、出血しているとかということはなく、寝てしまうという疾患になるので、事故などに合わなければ、生命には大きな問題はきたさないために、予後は悪くないものになります。
ナルコレプシー自体は、青年期から若年成人期に生じることが多く、症状は生涯続くことが多いとされます。カタプレキシー(情動脱力発作)と呼ばれる、驚き・笑うことで急に力が抜けてしまい、睡眠発作が生じてしまう1型と、カタプレキシーが生じない2型に分かれていきます。
この病気の原因では脳内の覚醒をコントロールするといわれる神経伝達物質の「オレキシン」の不足や欠乏が原因とも考えられています。このオレキシンは脳の視床下部にある少数の神経細胞から分泌されているものですが、量は多くないものと言われていきます。
オレキシン自体は視床下部外側野にある神経細胞から特異的に発現していて、摂食中枢とも近いためか、摂食との関連性も考えられていて、摂食、エネルギーの産生にも寄与していると考えられています。オレキシン神経がないマウスでは肥満しにくい食事でも肥満を生じることから、太りにくくする働きもあると考えられています。いろいろな働きをする物質ですね。
ナルコレプシーを生じている患者の死後脳ではオレキシン神経が脱落し、ナルコレプシー患者の約90%の髄液中にオレキシン濃度の著しい低下が生じていたことで、ナルコレプシーとオレキシンの関係があるのが発見された状態です。ナルコレプシー1型では脳内のオレキシンは著明に低下しているようですが、2型では脳内のオレキシンは保たれているということで、2型と比べて診断も難しいようです。ナルコレプシーではオレキシンが原因とされていますが、2型では保たれているのに眠気が生じてしまう原因は何なのでしょうか。調べて分かったようで、また分からなくなりますね。
このオレキシンは、脳の覚醒スイッチを入れる働きがあるとされています。脳では睡眠中枢(視床下部前部)と覚醒中枢(視床下部後部から中脳)があり、この2つがシーソーのようにバランスを取っていると考えられていて、オレキシンは覚醒中枢を刺激する物質になるので、中枢での働きによってナルコレプシーが生じているといえます。
睡眠と覚醒では、オレキシンだけではなく、ヒスタミンは睡眠と覚醒の維持に重要なGABA作動ニューロンによって抑制しているということなので、眠るときには、覚醒に関係するオレキシンとヒスタミンを抑えているようです。
※GABA作動ニューロン:神経伝達物質であるGAVA(γアミノ酪酸)を放出し他の神経細胞の活動を抑える。
「睡眠と覚醒を制御する神経回路を解明ー視床下部睡眠中枢と覚醒中枢の神経接続の解明」
このオレキシンの発見は1998年に柳沢氏が発見したものですが、2026年9月にラスカー賞を受賞したようですね。
「NEWS ラスカー賞に筑波大の柳沢教授、「オレキシン発見」を評価─中外製薬研究者も同時受賞」
「第184回 なぜオレキシンは大発見なのか、ラスカー賞受賞研究を詳しく解説」
オレキシンの欠乏により過眠症・ナルコレプシーが発病することの解明につながり、覚醒と睡眠に関係することを見つけたことから、オレキシンを抑えられれば睡眠を促すことにつながりますし、オレキシンを補えば覚醒を促すので過眠症に対処できるので、オレキシンを理解したことで、不眠の治療薬・過眠の治療薬が出来たと言えるので、睡眠・覚醒という状態では非常に重要な物質です。そして、過眠症に対する薬が2026年に完成して承認されたということなので、時間がかかってはいますが、それだけ大変だったというのが分かります。
ナルコレプシーと東洋医学
ナルコレプシーを初めて独立疾患として記載したのはフランスの医師ジャン=バティスト=エドゥアール・ジェリノーであるとされ1880年になりますが、人が生きているということは、病気も変わらないはずなので、昔にナルコレプシーがあるのか調べてみると、なかなか該当するものがないのが不思議です。ナルコレプシーの歴史や診断については、下記のリンクが参考になります。
日本の文献では平安末期~鎌倉時代初期頃に書かれた『病草紙』絵巻物の中に「眠り癖のある男」というのが出てくるので、感染・ナルコレプシー・睡眠時無呼吸症候群・脳腫瘍も考えられるので、断定できない状態です。
東洋医学では古典文献と呼ばれる昔の書籍に病気や症状が書いてあるので、ChatGPTにデータとしてまとめてみてもらったら、正しいかどうかは断定できませんが、こちらの回答になります。

『霊枢』の記載が確かに近いですが、『病草紙』のように、これだけでは他の病気を否定できないので何とも言えないところですね。人間がいたということは、身体は別物ではないので、昔にも病気があると思いましたが、見つけられない感じです。文献をもっと多くみれば探せるのかもしれませんが、私個人の文献では限界に近いですね。
では、東洋医学的にナルコレプシーの病能をどう考えることができるかと言えば、睡眠と覚醒を東洋医学的に理解しないといけなくなります。この轉では『霊枢』大惑論(80)に書かれている「黃帝曰:其非常經也,卒然多臥者,何氣使然?歧伯曰:邪氣留於上焦,上焦閉而不通,已食若飲湯,衛氣留久於陰而不行,故卒然多臥焉。」という部分も関係しそうです。簡潔にすれば、「急に寝てしまうのは上焦に邪気が停滞していることで気の運行が妨げられていることで、衛気が陰分に留まり、陽分へ巡らなくなるから眠る」という話です。
ここでの話は、衛気は体内(陰分)、体外(陽分)を循環していて、夜に寝ているときには陰分を巡り、起きているときには陽分を巡ることで、覚醒と睡眠のスイッチが切り替わっているのがうまくいかない状態というkとになります。他の書籍にも似たような記載が出てきますが、恐らく、この『霊枢』の記載が使われているのだと思われます。
学校教育の中では衛気が覚醒と睡眠に係るというのは出てこない話ですが、循環が悪いというのは確かに東洋医学っぽい考え方です。
睡眠に関しては、『素問』では「胃不和則臥不」という胃の働きが調和しなければ安らかに眠ることができないというのが出てきますが、胃腸の調子が悪ければ眠れないだろうなというのは想像できます。『傷寒論』では、睡眠の障害は少陰の病と合わせているところがあり、眠りたがる場合は陽虚傾向、眠れない場合は陰虚傾向ということで、こちらは病能としては理解しやすくなっています。
この内容と近いですが、違いもあるのが『外台秘要方』で「陰気虚.衛気独行於陽.不入於陰.故不得眠」「心煩而不得睡者.心熱也」「但虚煩而不得臥者.胆冷也」があり、「陰気が不足し、衛気が陽にあり、陰に入らないと眠れない」「心煩は眠れない現象で、心熱なり」「ただし虚で煩になり眠れないのは胆の冷なり」という話があり、不眠に熱、心熱という概念が入ってきています。鍼灸の学習では出てきませんが、胆は不眠と関係というのがこちらの出てきているので、「温胆湯(うんたんとう)」という胆を温めると不眠が消えるという漢方にもつながっているのではないでしょうか。
通常、鍼灸学校で使われている中医学で考えた場合は、不眠は熱・血虚で生じやすく、心との関係が密接になります。嗜睡という眠くて仕方ない状態は脾であり気陥でもあるので、どちらのケースで不眠を考えてもいいのですが、情動脱力発作という感情の高ぶりと不眠となると、少し違う気もしてきます。脾虚からの痰湿、または痰湿が単体で存在する状況もあり、それにより睡眠の障害は発生するでしょうが、感情の高ぶりと絡めるのは難しいですね。
感情の高ぶりにより五志に影響することで各臓腑の問題へ関連するので、五臓どこからも発生すると考えることもできますし、五志は七情と関係が深いので、七情は肝との関係が密接になるので、五志の刺激が肝に影響して生じているという考え方をすることもできます。
通常、覚醒時は心に血が充実することで神志(精神・意識・思惟活動)が活発になっていて、主血が肝に血を送り蔵血されることで、心の血が不足するために、神志が働けなくなり睡眠につながると考えれば、情志の刺激が心・肝の覚醒・睡眠のスイッチを勝手に切り替えてしまうのですかね。実際に人がいれば、身体の状態を確認しながら、臓腑を確定することもできるでしょうが、言葉だけだと断定するのは難しいですね。


